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哲学から放射線被ばくを考える(10月28日)

 放射線から守ろうとする「正義」が、被災者を苦しめている。思いは自分だけでとどめるべき

 1の瀬正樹氏の「放射能問題に立ち向かう哲学」を読んだ。
 哲学者の立場で、放射能問題を客観的に論じている良書である。内容は、哲学的な論考だけでなく、リスク、確立、人体への分子レベルでの作用、安全性など、自然科学的な分野にも踏み込んでいる。
 むしろ自然科学の専門家ではないため、素人にはわかりやすい。普通の人は何がわからないかを、知っているからである。

 その要旨である。

①低線量被ばくの恐怖は、将来のがん発生であるが、少なくとも科学的には証明されていない
②福島の原発災害という負の出来事に対し、だれかに責任を押し付けたい心理が働いている
③放射能ががんになるのは活性酸素が発生するからで、これは程度と比較の問題である(あらゆるものは毒であり、毒か薬かは量次第)
④科学的客観的な「安全」と心理的な「安心」は、似て非なるものである
⑤「低線量被ばくでがんになる」と言う因果関係は証明できない
⑥因果関係は証明できないため、被曝線量に応じて補償金を払うという方法も考えられる
⑦「年間1ミリシーベルト」というのは「先天的」な正しさであり、科学的ではない
⑧予防原則を適用することで不都合が生ずる。福島の事故でも、被災地を離れたための「関連死」が大量に発生した
⑨放射線被ばくは、企業リスクの借金と似ている。メリットもありデメリットもある
⑩放射能の危険を吹聴する行為は、合理性を欠き道徳的にも正当化しにくい
⑪小出裕章氏のLNT仮説見解では、自然放射線の中でも健康な人はいなくなり、矛盾している
⑫放射線から守ろうとする「正義」が、被災地を差別する。「道徳のディレンマ」に陥らないよう、自分の決断は自分だけで実行すればいい

 そして繰り返し、つぎのように述べている。

≪いかなる被ばくも危険だと主張する方々が何を述べたいのかが私には本当の意味で理解できないのだが、もしそれが、福島原発周辺の広範な地域に住む人々に「避難」を勧めているということだとするならば、それは、現状に関するこれまでのデータからして、有害な勧奨であることはほぼ間違いない。人々を救うどころか、かえって人々を苦しめ場合によっては、死に至らしめてしまいかねない。
 -略―
 せめて人に語ることなく、自分だけで実行することでとどめてほしい。・・・≫

 1の瀬正樹氏は、原発の稼働には言及していない。だが、原発が稼働しないことによるリスクを見向きもしない市民も、まったく同じである。

 世に出ている著書やブログのタイトルを、ざっと眺めてみよう。1の瀬氏のような、冷静に放射能や原発を扱った著作は、探すのが大変である。逆に、反原発や放射能の恐怖を扱ったものは、いくらでも発見される。
 おどろおどろしいタイトルをつけ、今にも日本中が死の国になるような書き方をしているものさえある。

 それでもまだ、自分は「正義の味方」と思っているのだから始末が悪い。
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