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福井産地の眼鏡枠製造(2月12日)

 基本のファッション性に気付き、そのニーズを満たす商品を提供すれば市場を席巻できる

 福井の眼鏡枠製造は、昭和50年代の終わりに、世界で始めてチタン金属を用いた製造技術を確立し、昭和から平成初期にかけてのピーク時には、製造品出荷額は1200億円以上に達していた。
 しかし、大手のメーカーが次々と消滅するなど、今では構造的な衰退産業とみられるようになった。現在の製造品出荷額は、ピークの半分以下の500億円近くにまで落ち込んでいる。
 完成間近の白枠を中国から輸入、仕上げ加工を行う製品が増えているため、産地としての粗付加価値生産額は、それ以上に悪化している。

 なぜ、これだけ産地が衰退してしまったのであろうか。

①アジア、とくに中国産地からの製品の流入
 時代の流れであり、日本の製造業が中国や東アジアの生産能力に競争力をもてなくなって久しい。すでに定番品では、中国の生産技術のほうが上回っているものさえある。
 中国と対抗するために、人件費の高い国内で、工数の多大な多品種小ロット、特殊仕様の製品を作るため、福井産地の眼鏡業は、いっそう低収益構造に陥ってしまった。

②日本の眼鏡産業の産業構造
 繊維業界と同じように、複雑な工程間の分業構造、川中と川下の結びつきの弱さ、川上への影響力の弱さ、内需への偏重などによって情報が分断、歪曲され、ニーズに応じた競争力が形成できなかった。戦略が定まらないことで、企業の技術や努力がなかなか実らず、非価格競争力、国際競争力が弱くなってしまった。
 また、眼鏡枠における売値と仕入れ値の差(粗利益)は、素材・部品40~50%、小売55~60%、問屋20~30%であるのに、産地生産者の利益幅は20%程度にすぎない。すなわち、価値創出のための活動と利益は、サプライチェーンのはじめと終わりにある中で、福井産地は依然として中間生産(スマイルカーブの低収益部分)、しかもOEM生産体制に固定化されている。

③ブランド形成、デザイン力への注力不足
 1980~2000年には、借り物のブランドによって、大きく業績を伸ばした企業が少なからず存在していた。これらの企業は、ブランド元が回収を始めるとそれだけで、極端に経営が悪化する。
 海外からの導入ブランドを使えば、その導入先のイメージが顧客に浸透することを助けていることにもなる。自社のブランドを育てる機会を、自ら奪ってきた。その結果、自力での高付加価値化分野への移行が、なかなかできなかったのである。
 また、日本の文化的背景もあって、デザイン面での人材があまり育たず、企業のデザインノウハウが充分に蓄積されてこなかった。自分でデザインしなくなるから力がつかないし、デザイン力を育てようとする意欲も弱くなってしまった。海外のブランド元が引いて、イタリアへ流れた大きな要因でもある。

④産地メーカー、産地問屋の販売力の弱さ
 平成初期、鯖江産地と並び称されていたイタリア北部のベッルーノでは、製造メーカーの寡占化と世界販売戦略が大きく進んでいる。最大手のルクソティカだけで、7500億円(2006年、現在は1兆円程度)もの売上をあげる(シャルマンの30倍)。そのため、平成初期には福井産地と同じくらいであったベッルーノ産地の製造品出荷額も、2500億円と現在の福井産地の5倍にまで伸びている。すなわち、産地のメーカー自身が強力な販売力をつけている。
 しかし日本は、イタリアの5倍以上の市場規模があるため、かえって世界に向けての販売が進まなかった。力をつけている大手小売業の国内販売品さえ、仕入れの80%は中国である。産地問屋も、その大手小売りに依存している。そのため、産地製品を販売する活力そのものが、失われている。

⑤人材不足
 生産現場、管理部門で働く技術者や技能者、とくに若年者の人材不足が深刻になっている。このため、就業者の高齢化が進み、技術のハイテク化についていけないところも出てきた。業績が悪いから後継者や人材が手薄になるという悪循環で、基本となる従来技術の継承も困難となり、人材不足による廃業も発生している。
 じつは3~40年前、学卒の優秀な人材が大量に入った時期があり、チタン枠開発などの技術開発に結びついたことがあった。しかしそれは、技術開発にとどまり、企業戦略を見越したマーケテイング力の増強までには至らなかった。家電業界における苦境構造の、小型版だと言える。

            丸メガネ

 このように、福井の眼鏡業界衰退の原因を並べると、もう救いはないように見える。こうなったら、落ちるところまで落ちるのではないか。一度「地獄」を見ないと、回復できないのかもしれない。

 しかし、「眼鏡枠」という商品そのものが、なくなるわけではない。眼鏡枠は本来、視力を矯正するための機能商品であったが、今ではファッションとしての地位はゆるぎない。とくに、容色が衰えた中高年者が、それを劇的に回復させる強力なツールである。なんといっても、人が一番注目する「顔」のど真ん中を飾るのである(稲田大臣のは、いまいちセンスがないように思うが)。
 その基本のファッション性に気付き、ニーズを満たす商品を提供できれば、あっという間に市場を席巻する。

 そして福井産地でも、その萌芽が目につくようになった。
 たとえば最近ファブレス企業、すなわち企画・販売だけを自社で行い、製造は産地の企業に発注する形態の企業が活躍している。
 これらの企業は小規模ながら、斬新なデザイン力と小回り性を武器に、技術力の高い産地企業のみならず、海外企業とも柔軟な連携を深め、知名度を向上させている。
 若い世代で、今の時代にマッチした経営ができる行動力、意欲のある経営者が多い。これらの、若い経営者に期待したい。
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