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専門家を信頼できるのか(4月12日)

 本当の専門家なら、1芸だけに秀でているのではなく、あらゆることに精通している

 哲学者の適菜収氏は、月間新潮45の3月号で、「プロフェッショナル受難の時代」と題して、次のようなことを述べていた。
①現代は、素人がプロフェッショナルを批判して恥じない時代である。
②プロフェッショナル、専門家、職人の仕事を尊重し、価値を認めることによって、自分自身を高めることができる。そのために目を肥やす必要がある。
③ところが、新聞を読んで小賢しくなり、あらゆるトピックに意見を持つ。そして、自分がプロフェッショナル以上の何者かであるような幻想を抱いている。そのような人が多い。
④近代は、バカを肯定する。世の中の弱い者、愚かな者、軽く見られている者が権力を持つ。
⑤多数決が正しい根拠はどこにもない。多数決では、賢者も愚者も同じ1票を持つ。
⑥民意に従うのは政治の自殺である。政治家は、熱しやすい世論から距離をおいて、国家の過去と未来に責任を持って、プロとして判断しなければならない。
⑦プロフェッショナルとして、専門家として、職業人として、すべての選択に責任を負う。
⑧「少し黙ってみませんか」と提言したい。おしゃべりは教養の欠如である。
⑨ゲーテは「活動的なバカより恐ろしいものはない」といった。
⑩発言するのはいい。幼稚な思い込み、凡庸な意見、素人の断定を、社会に強要する権利が、権力になっていることが問題なのだ。
⑪司法、立法、行政、軍事、その他すべての領域において、プロフェッショナルの仕事を尊重し、お互いの専門領域に軽々しく口を出さない。

 なにか、私のことを言われているような気がする。散々、「新聞を読んで小賢しくなって、あらゆるトピックに意見を持って」吐いているからである。たしかに、「素人」が思い込みだけで軽々しく、あらゆることに批判を加え過ぎることは問題である。多くの分野は、「素人」には簡単に理解できないような事情や理論背景が存在している。従って私も、なんであろうとその道のプロは尊敬している。自分のわからないことに精通し、また自分のできないことをうまくやってのけるからである。

                多面仏

 一方で専門家は、司法、立法、行政、軍事、物理的、生物的、人文的などすべての領域分野を、際限なく細分化する。自分の専門分野を明らかにし、他の追随を振り払うためである。また、予想が外れた時(たいてい外れる)の言い訳はみごとである。周りの知識レベルを見て本当のような嘘をつき、人を煙に巻く。その分野の知識では、誰も太刀打ちできないからだ。そしてそのことを武器に、自分の専門分野に係る危機を煽り、予算を獲得する技術も抜きんでている。

 では本当に、プロや専門家にすべてをまかせていいのであろうか。料理やスポーツなど、ほんの狭い範囲だけに影響するものなら、それで良い。しかし政治や経済のように広範囲に、または現実に自分自身に影響する可能性があるときはどうであろう。異常があったとき、専門家は本当に責任をとれるのか。ちなみに、責任を取るということは、損害を被った人に対して、自らを毀損してまで徹底的に賠償するということである。プロや専門家を名乗る人で、そこまでやれる人はほとんどいないのではないか。あるいは、その覚悟があるとはとても思えない。

 そもそも、本当のプロや専門家を、誰がどうやって決めるのか。自称専門家はいくらでもいる。私も一応いくつかの分野の専門家である。だが、1芸や2芸に秀でていたとしても、それだけでいいのではない。一つの領域の頂点を極めるということは、一見無関係なあらゆる分野の知見が幾千重にも積み重なり、それがゆるぎなく頂点を支えているのである。
 本当の専門家とは、このように重厚な塊の中の知見が、相互に組み合わさって新しい知見を生み出し、守備範囲の広い頂点を支えている人だと思う。まだまだ頂点を極める余地があるし、自分はほんの入り口にしか立っていないと自覚している。多くの世の中の課題は、この未知の分野にあるのだ。
 同じ「専門家」でも、スカイツリーのように、その専門領域だけが突出しているだけの人もいる。その場合、多様化した複雑怪奇な現実の課題に対して、その頂点がぴたりとあてはまることなどあり得ない。突出しているだけで裾野がないということは、組み合わせて新しい知見を生み出すための引き出しがなく、それ以上先へ行く余地がないということでもある。こんな人は、「学者」として、神棚においておけばいい。500年後には、偶然役立つかもしれない。

 従って本当の専門家とは、1つの分野だけでなく、多くの分野で頂点近くにまでたどり着いている人である。そして、物事を広く総合的にとらえることができる人だ。政治の分野に、居酒屋の頂点に立ったおやじがちょっかい出しても、一向にかまわない。政治や司法の分野では、専門領域だけ突出している若手の専門家よりも、幅広い人生経験を積んだ素人の耄碌爺のほうに、一家言ある場合が多いのである。
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