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科学技術の失敗(書評)

 「科学技術の失敗から学ぶということ」寿楽浩太(東京電機大教授)オーム社より

 構造物の事故や失敗については、畑村洋太郎氏の「失敗学」をはじめとして、多くの解説書が出ている。その最新の著作である。
 いくつかの事例の技術的な解説と、巨大技術の事故の可能性について考察している。

①未知の要因による事故
 1940年に開通4か月で崩落したタコマ橋の事故原因(フラッター現象)や、ジェット旅客機コメット機の連続爆発の原因(複雑な金属疲労)は、その時点では予想不能だった。コメット機以後、事故から学ぶプロセスが、「事故調査」として制度化され、ブラックボックスも開発された。

②複合要因による事故
 名古屋空港における中華航空機エアバス事故(1994年)では、自動操縦の解除操作の手違いで失速し大事故になった。以前は簡単に自動操縦解除ができたが、③の事故要因となったために、改善したものである。あちら立てれば、こちらが立たない。このトレードオフの要件については、複雑な対策が必要となる。

③意図しないミスによる事故
 ②の事故の20年前、旅客機運転席にあるランプ交換作業中に、体の一部が触れて自動操縦が解除され、それに気付かずに飛行し、墜落してしまったことがあった。管制官からの異常連絡も、別なことと勘違いしていた。簡単に自動操縦が解除されてしまったことと、コミュニケーションミスが事故原因とされている。

④ヒューマンエラー
 スリーマイル島原子炉の炉心融解事故(1979年)は、ひとつ一つは問題ない細かいミスが重なって起こったもの。その要因として、同じような計器にややこしいタグが付き、また見にくい計器もあった。ヒューマンエラーを起こしやすい仕組みになっていたとされる。
 巨大技術には無数の組合せがあり、人知では管理しきれない。ある事故が想定外の別な出来事を起こす。事故は必ず起こり、それが許容できるかどうかである。

               モンゴル大帝王顔H25.6.21

⑤組織における「逸脱の常態化」
 チャレンジャー号の爆発事故(1986年)は、外部から見て異常と思われる「低温化でのパッキン破損」を軽視したために起こった、といわれる。リスクが指摘されていたのに発射を強行したのは、それまで組織内で徹底的に安全性を検討してきたという自負があったから。つまり逸脱の常態化が見抜けなかった。
外部の目を入れても、完全に防げないのが怖い。

⑥生産性と安全性
 メキシコ湾の石油掘削施設が爆発炎上し、11名が行方不明となり大量の原油が流出した(2010年)。原因は、安全を損なう多くの問題が事故を誘発する、「不運の連鎖」である。
多くの組織では、生産性と安全性のせめぎ合いの中で、生産性が優先され安全性が犠牲になる。平穏無事な時間に何があったかを、しっかり見る必要がある(ヒヤリハット)。

⑦安全文化の要素(リーズンによる)
 ・報告する文化・・安全情報の共有
 ・公正な文化・・行動の境界が明確
 ・柔軟な文化・・変化に対する備え
 ・学習する文化・・現状に満足せず常に見直す

⑧原因究明と責任追及
 1997年日本航空MD11機が、乱気流に巻き込まれ、パイロットの未熟さのために機体が揺さぶられ、乗員1名が亡くなった。
当初機長が告発された。だが、原因を機長の問題としたことに多くのパイロットが反発。条約や法律では「事故調査と刑事訴訟の分離」が原則である。それでも、社会正義や被害者身内の立場としては、責任者をつるし上げたい。
 アメリカでは、過失の場合は犯罪とはしない代わりに、事故調査に対する義務がある。
 各国で対応は異なっており、自動車の過失運転処罰との矛盾もある。なにがいいかはわからない。

               自転車事故賠償金 R2.2.21

⑨無能な経営者ほど責任を問われない矛盾
 2005年JR福知山線の大量死亡事故では、責任を問われた人がなかった。JR西日本の経営陣は、その現場にATS-P設置の必要性を認識していなかったからである。遺族や関係者にとっては理不尽である。また日本では法律上、個人でなく「組織の責任を問う」ことができない。

⑩レジリエンス(適応能力)エンジニアリング
 3.11福島第一原発のような、「想定外」の事象による事故は必ず起こる。もちろん異常を出さない工夫は必要である。それでも異常が発生した場合、最低の機能を維持できることが大切である。臨機応変に対応できる現場力が不可欠で、その人材が育つ環境を維持する必要がある(今のように原発から逃げていては、リスクは高まる)。
 さらに巨大技術の安全性は、多くのことが正しい方向へ向かうことによって、高まっていく。これも走りながら考えることが必要である。

⑪2.5人称の視点
 大事故が起こったとき、第3者の立場から客観的に評価することは必要であっても、当事者(遺族)には受け入れられず、責任を追及したい。その場合、当事者の立場に立って専門的評価を行う視点が必要である。

⑫なにかが起きる前に対策を
 いまのうちに、将来起こりうる事故や失敗とどう向き合うかを、検討しておくべき。

               事故② H31.3.18

 事故や失敗にどう対応するかというのは、BCP(事業継続計画)と同じ考えである。
 著者は、あらかじめ事故が起こる前に対策を考えろという。もちろん、想定できる事象に対しては対策をとり、実施訓練も必要である。なにがどこにあるのか、現場・現物を肌で学習しておくことはきわめて重要である。

 だが巨大事故は、偶然の積み重ねで起こる。その組み合わせは無限にあるから、何がどうなるのか、あらかじめ想定するのは極めて難しい。
 そんなとき臨機応変に対応できるのは、現場の神様である。神は現場でしか生まれない。
 そしてその失敗積み重ねが、偉大な世界をつくりあげるのである。リスクが怖いから止めておこうという、平和ボケ患者は人間ではない。
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