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大東亜戦争に至る10年 (書評)

 そのときどきの偶然の積み重ねが、これまでの歴史をつくっている

 加藤陽子氏の著書「戦争まで」は、昭和の初めから大東亜戦争に至るまでの、複雑な昭和前半、日本が直面した3度の大きな決断の機会を記述している。

①ひとつは、満州事変を調査したリットン報告書の扱い。
②つぎに、日独伊3国同盟の締結。
③そして、真珠湾攻撃に至るまでの、日米交渉である。

 おおまかな内容は、以下のとおりである。

①リットン報告書の拒絶
 1932年に、日本が満州国を承認したとき、それを調査したリットン調査団の報告書は18000字、書籍にしたら300ページにも及ぶ。だからほとんどの人は読んでいない。まったく読んでない人が、まともに中身を理解してない評論家の書く新聞記事をもとに評価していた。
 報告書はどんな内容だったのか。加藤氏の解釈によると、リットンは満州における日本の利益の一部を認めたうえで、中国側に不利なことも示し、お互い話し合うことを提案していた。むしろ中国側が反発していた。
 しかし日本のマスコミは、「どこから見ても最悪の報告」と報じ、国民を煽っていた。当時は、10月事件、5.15事件などテロが頻発し、とても日本が一部でも譲歩を示す、リットン提案を飲める状態ではなかった。やがて日本は、国際連盟脱退に至る。


②日独伊3国同盟の締結
 この同盟は、ドイツの快進撃に目が眩んだ日本が、焦って結んだといわれている。
 ドイツの立場からは、3国同盟によって日本に太平洋側のアメリカをけん制してもらえる。アメリカは、大西洋側の欧州方面に注力できなくなる。また東に進もうとするドイツにとって、日本軍はソ連に対するけん制にもなる。

 日本の内部では、陸軍と海軍の軍事費をめぐる攻防があった。つまり3国同盟によって、中国大陸から太平洋側へ注力できるということは、海軍軍事費の比率を拡大できる。
 さらに欧州では、ドイツがオランダやフランスを占領し、イギリスと講和を結ぶ寸前までいっていた。つまり日本がドイツと組めば、欧州の植民地だった東南アジア~太平洋の島々を、日本が手に入れることができる。ここで本来の、欧米植民地から解放するという、「八紘一宇」「大東亜共栄圏」の理念が希薄になってしまったのである。

                天狗

③ハルノートから宣戦布告へ
 加藤氏によると、開戦1年前から、アメリカ側のルーズベルト大統領やハル国務長官、日本では天皇をはじめ近衛首相や米国大使など、多くの人が戦争を回避しようと、躍起になっていた。だがアメリカや日本の強硬派が、彼ら指導層の隙をついて、相手側に厳しいメッセージを送る。そのあたりでボタンの掛け違いがあり、あれよあれよと、戦争へと追い込まれていく。また、アメリカに対する宣戦布告が遅れたのは、日本陸軍によって大使館への電報が15時間も留め置かれたためという説もある(送別会で遅刻した大使館員の怠慢でない可能性)。


 いずれも、文書や現状の事実の解釈が異なっていれば、異なった対応で異なった現実を生み出していた。つまり、そのときどきの偶然の積み重ねが、これまでの歴史を形造っているのである。たとえばいまアメリカで、民主党がトランプ大統領を弾劾しようとしている。その根拠となる文書に、トランプ氏の問題行動など一切記載されていない(という人がいる)。それがほんとなら、世の中は何といい加減なことか。


 日本が戦争に突入しなかったら、あるいは戦争に勝っていたらどうか。いずれの状況も充分ありうる。いまの世界はまた大きく異なっていた。
 もっとも、これからどうなるか誰にも分からない。
 世の中万事、塞翁が馬である。
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