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BCPから事業継続力強化へ

 普及のため、膨大なBCP文書をつくらなくていいことが、今回の見直しの狙いである

 先週、中小企業庁主催「事業継続力強化」についての、指導人材向け研修会に参加した。
 吃驚したのは、こんどの中小企業強靭化法による「事業継続力強化計画」は、これまでのBCPとは、大きく異なっていることである。うすうすわかっていたが、国がここまで踏み込むとは思わなかった。

 もともとBCPは、地震などの自然災害、テロや戦争、鳥インフルエンザなど、あらゆる異常事態が発生したとき、被害をこうむった企業が、できるだけ短期間で再開できるように作成する計画のことである。これまで経産省の肝いりで、企業はBCP策定を推進してきた。国はその策定率の向上を目標としていた。

 この従来BCPの内容は、おおまかに①想定される災害を挙げる、②自社の存続にかかわる重要業務を決める、③重要業務を復旧される目標時間を設定する、④復旧のための資源を特定する、⑤対策や代替手段、⑤資金調達計画、⑥勤務体制の予定、⑦情報収集・発信法、⑧訓練・・・などで構成される。

 これに対応するため、多くの大手・中堅企業では、専任部署とコンサルタントが、何年もかけて各部門ごと膨大なBCP文書を作成し、担当者が手間をかけてメンテナンスを行ってきた。これまで、16%を超える企業が何らかのBCPを策定してきたという。
 そして、このBCPが導入されてからも日本は、東北関東大震災をはじめとして、いくつもの災害に見舞われてきた。そのたび地域の企業は大変な被害を被り、そのなかで再建した企業はたくさんある。

                台風24号 H30.9.29

 しかし、現実の災害現場における被災の状況、企業ごとの復旧の実態把握を重ねるうち、従来のBCPの有効性についての疑問が生じてきていた。ほんとにBCPは役立ったのかどうかである。そのため経産省では、昨年からBCPについての検証会が行われてきた。
 その結果、これまでのBCPは有効でないと結論付けたらしい。

 つまり、いくらBCPを策定してあっても、現実に災害が起こったとき、それに頼った企業はほとんどなかったという。多くの企業では、BCP文書作成やメンテナンスなどの負担が大きく、連絡先リストなどを除き、更新・改善はほとんど行われていない。企業内で、BCPの存在も希薄になってきていた。そもそもBCP構築企業でも、自社のBCPがあることを知らない人が多い。これではBCPの意味が無い。

 そこで、従来目標としていた企業のBCPの策定率向上を、今後棚上げすることになった。これまでBCPを策定してきた16%強の企業や支援コンサルタントは、ここでいきなり、梯子を外されてしまったのである。

 研修会の翌日、このことをある大手企業の子会社役員の方に説明したところ、「国も、ようやくそのことに気が付いたのか」と、喜んでいた。この会社も、親会社に要求されて分厚いBCP文書を作成していたが、その維持に苦労していたのだと言う。

                文書作成
 では今後どうするのか。
 いくらBCPが役立たずといっても、災害が起こったとき何の準備もなければ困る。
 そこで中小企業庁は、BCPを簡素化した「事業継続力強化計画に係る認定申請書」という、数ページの申請フォーマットを公開し、中小企業が事業継続力の強化に取り組めるよう「指導」を始めている。従来のBCPと大きく異なるところは、きわめて簡潔になったことである。その気になれば、1~2時間で書ける。例えば(従来のBCPに入れていた)必ず継続すべき「重要業務」を想定しない。

 そもそも大災害が発生した場合、どのような被害が発生するかは、そのときになって見なければわからない。いくら重要業務を維持しようとしても、その対象となる顧客が被災して事業不能になったら、まったく意味がない。あるいは、最初想定していた機械・設備が壊れるかどうかも、そのときになってみなければわからない
 重要なのはどんな事態が起こっても、臨機応変に情報を収集し、状況に応じた対策を実行することなのである(あたりまえ)。


 もっとも、最新の申請フォーマットを埋めたところで、まともに災害時の事業継続がはかられるとは思えない。むしろ従来のBCPを簡素化しただけなので、実効性はもっと悪くなる。
 それでも、企業が事業継続に取り組もうとする意欲、やる気をはかることはできる。またこれまでBCP策定に2の足を踏んでいた中小・零細企業へも普及できる。それが今回の事業の目的であって、やる気があれば、あとは訓練や社内の啓もうを行っていけばいい。という考え方である。このやり方は、素晴らしいと思う。すくなくとも、膨大なBCP文書をつくらなくてもいいから、企業の負担は軽くなる(もしかしたら、それだけ狙いのような気がする)。

 さらに、そのやる気のある企業をどのように支援していくかについて、いま自治体や地域の商工会、商工会議所等が計画を練っているという。いくらやる気があっても、何らかの刺激や適切なフォローがなければ長続きしない。
 だがその支援内容はまだ見えてこない。
 先の研修会講師が心配していたのは、地域の支援機関が今回の改訂趣旨を理解できず、従前のBCPを蒸し返したような、煩雑なシステム構築を支援することであった。そうなったら、元の木阿弥である。 
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