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バッタを倒しにアフリカへ

 世の中の人に喜んでもらえるなら、「自分の不幸も蜜の味」になる

 この本は、昆虫学者前野ウルド浩太郎氏の書いた、ベストセラードキュメンタリ―である。昆虫学者を志す若きポスドク(博士になって正規の研究・教育職に就いていない人)が、バッタ研究のため単身アフリカのモーリタニアに渡航。そのバラエティに富んだ研究生活記録である。
 ポスドクは、数多くの論文を書かなければつぎの段階に進めない。下手すれば一生涯、おまんまの食い上げになる。著者は、論文のタネをもとめ、「過酷」な生活環境の赤道直下、西アフリカに、単身乗り込んだ。

 この本は、そこかしこユーモアが盛り込まれており、380ページを一気に読むことができた。ユーモアは、著者の文章力に加え、彼自身がしでかしたへまや失敗の履歴である。それがなんとなく小気味いい。

                千両役者 H30.11.25

 このことは本の中で著者自身が述べている。
 読む人にとって「人の不幸は蜜の味」である。ほかの人の自伝本はたいてい、自分がうまくいった話をそれとなく自慢している。書いた人は気持ち良くても、読む人は面白くはない。人の不幸に、読者はひかれる。読者に喜んでもらえるなら、不幸や失敗は話のネタになる。そう考えたら、「自分の不幸も蜜の味」になる。そうやって、自分の不幸を歓迎しているのがいい。

 たとえばこの本では、現地の従業員から相場以上のお金を取られたり、バッタを子供達から買い取ろうとして騒乱になったり、大枚はたいて作ったバッタ用の網かごが腐食するなど、つぎつぎと想定外の失敗が描かれている。普通ならやけくそになる。

 それでもバッタ博士はしぶとい。研究用のバッタがいないときは、たまたま見つけたゴミムシダマシという別の昆虫に着目した。エサを食べたときのユーモラスな挙動、それまで誰も見つけられなかった簡便な雌雄判別法を編み出し論文にまとめる。アイデアを駆使できれば、いくらでも研究できる。
 物語の最後では、バッタ博士の努力が世間に認められていく過程が綴られている。講演会に呼ばれたり、いろんなところから潤沢な研究費が支給されるようになる。
 そしてこの著作は、ベストセラーになった。

 これからはさすがに、若いときのように、貧乏・自虐ネタばかりで読者をひきつけることは難しい。この一発芸で終わるかもしれない。

 それでも仕事を続けている限り、失敗から逃れることはできない。つぎはどのような自虐ネタで、読者を楽しませてくれるだろうか。こんどは学術的な中身と、さらに上達した文章センスで、深みのある面白い著書を期待したい。
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