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「冷静」な原発論争

 是非を論ずる場合には、それを否定したときどうなるかを示す必要がある

 大飯原発3・4号機など、原子力規制委員会による安全審査と設置許可の出た原子力発電所が続々現れ、本格的な再稼働を待っている。日本と世界人類の未来にとって好ましいにもかかわらず、依然として反対する人たちは多い。
 そのなかで最近、楠美順理氏の「はじめての原発ガイドブック」が刊行された。

 これまで出された大多数の原発関連本が感情的に反原発に傾いている中で、この本は原発の是非について、いくつかの争点を明確にし、冷静に判断する指標を示している。著者はあくまでも中立の立場で、論点の整理だけに努めている。内容も文章も平易で、素人にも理解しやすい。100ページそこそこの薄い本だけに、読み始めるのに一大決心することもない。原発「初心者」に対する、論争および意思決定には格好の入門本である。

      サクラ咲く H29.3.26

 しかし争点の掘り下げがやや浅く、物足りない人もいると思った(読み易いこととトレードオフであるが)。具体的には、いろんなリスクやコストなど争点を論ずる場合、他の分野との比較がないことである。この本では、「不要と整理した論点」として、それを意図して外している。

 たとえばこの本では、放射線が人体にどのような影響を与えるのか具体的に解説している。それはいいのだが、ほんとはそのリスクの程度が問題なのである。世の中にゼロリスクなど一つもない。
 安全性については、放射線のリスクだけを論じるのでなく、他の発電方式との比較が欲しかった。じつは原発は、単位発電量当たりでもっとも死亡した人の少ない発電方式である。目先の放射線の危険性だけを感覚的に思い込むと、事実を見誤ってしまう。

 またリスクは、日常生活のあらゆるものとも比較する必要がある。スマホや携帯の電波、送電線の電磁波、大気中の微粒物質、多様な病原菌やウィルス、食物の中の毒素、人間関係ストレスなど、われわれはありとあらゆるリスクに囲まれている。世の中に絶対安全なものはない。原発事故時の低線量被曝リスクなど、そのなかに埋没してしまう。
 人間はそれらのリスクを封じることで、文明を発展させてきたのである。

 さらにコスト面では、単に発生する費用の大きさを比較するだけでは弱い。国際的な資金の流れまでみないと、多面的な真のコストを把握することができない。その場合でも、他の発電方式との比較は必要である。

          迫力サル

 すなわち、どのようなものでも是非を論ずる場合には、それを否定したときどうなるかを示す必要がある。原発を廃止した場合には、他の発電方式を採用するか、そのぶん電力を使わないことになる。その場合でも必ず、メリットと同時にデメリットがあるはずである。反原発者のように、単に危険だからダメというだけでは、現実的な解決にはならない。
 この辺りを加味すれば、さらに実用性のある論争本になったのではないか。
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