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おしょりん

 福井のメガネの始まりは、鯖江ではなく、福井市「麻生津」である

 「おしょりん」は、福井の眼鏡枠製造の先駆者である増永五左衛門の創業時を描いた小説である。京都出身の藤岡陽子氏が、福井の資料を丹念に調査し、創作を交え書かれたそうである。

 羽二重機業で失敗した増永五左衛門が、大阪に出た弟幸八の熱心な誘いで技術指導者を招き、文殊山の麓である麻生津村で職人を集めて開始した眼鏡枠づくりが基本テーマである。明治38年、最初数人から始めた工場を、「帳場制」(事業部制のようなもの)として拡大し、6年後には全国コンクールで入賞するなど、福井製の眼鏡が認められるところまでの物語である。
 
 約330ページとやや長いが、身近な眼鏡づくりがテーマであり、3時間ほどで一気に読み終えることができた。読んでいて苦痛でなかったということは、小説として合格である。これまで読んだ小説の中では秀作である。なにしろ芥川や直木賞小説などは、最初の10ページまで進めない。選考人にとっていい小説かもしれないが、読むことの苦しい小説の評価はゼロである。

 そして福井のメガネの始まりは、鯖江ではなく、福井市の「麻生津」だということが、あらためて認識された。文殊山の中腹にある巨大なイルミネーション、「 SABAE」は、「 ASOUDU」に変えるべきである。

       丸メガネ


 ただ、気になったところを、3点ばかり挙げてみたい。
①小説の主題
 物語の主人公である、うめ(五左衛門の妻)と幸八との「不倫関係」がプラトニックすぎる。そのため実業と恋愛のいずれが主題なのか、中途半端でわかりにくい。ほんとはもっと、ドロドロした関係を描きたかったのだと思う。資金繰りや技術上のトラブルなど、事業面での描写も緩い。
 いまも実在の増永家が事業を営んでおり、しかもそう遠くない祖先だから、作者は遠慮したのであろうか。

②福井の言葉づかい
 五左衛門のセリフの語尾に、「ざ」を頻繁につけており、煩わしい。たしかに福井では「ざ」をつけることがある。発言が柔らかくなるので、人に説教したり怒ったりするときには合わない。
 昔の麻生津住民は、なんでもかんでも「ざ」をつけるのが、当たり前だったのかもしれないが。

③おしょりん
 本の主題、タイトルである。「おしょりん」はこの地域の昔の方言で、「普段歩けないところでも、寒い冬の朝に、凍った雪の上を歩ける状態になること」だそうである。たぶん「寒い雪国だからこそ、努力を重ね何でもできるようになる」ということのようである。
 これもわざとらしいと思うのは、私がひねくれているからであろう。それに近年は暖冬のせいで、「おしょりん」がすぐ「ガブリ雪」になってしまう。
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